邂逅
大学時代、同じサークルだったがほとんど接点のなかった後輩から、急に電話がかかって来た。
電話とは往々にして急にかかってくるものだということを差し引いても、あまりにも心当たりがなさすぎて彼は首をかしげた。
多分、何かの間違いでかかってしまったんだろうと、一度は電話に出なかったほどである。
ところが、もう一度かかってきたのである。
電話に出てみると、「今年保険会社に就職したので、研修で学んだことを聞いてもらって、ちょっとアドバイスしてほしいんですが…勧誘とかじゃないんです!30分もかかりませんので!」ということであった。
なんでも、一人でも多くの人に会ってもらうべく、ほぼすべての知人に連絡を取っているようだ。
彼がまず感じたのは、"怪しさ"だった。
そして次に、一抹の"興味"。
これがやっかいである。
"興味"だったり"好奇心"、どこか怖いもの見たさにも似た気持ちというものは、ときに人を動かす原動力として、想像を絶する威力を発揮する。
とはいえ、それほど知らない後輩の頼み、ただそれだけのために、こんな片田舎からのこのこと京都まで出て行く者がいるというのか。
ことわっておくが、彼は、自ら「そのうち、お人好しが原因で命を落とすんじゃないか」と危惧するほどの性格である。
併せて、「会える人には会えるときに会っておく」という信条も持ち合わせているらしい。
後輩との再会を終えた彼は、地下鉄で弟の家に向かった。
後輩とは、約二時間話した。
そして、よくわかった。
ああいう仕事というのは、人間関係、人脈が大切である。
会社の思惑としても、その場で結果を求めるのではなく、“将来的に”だったり、“自分の周りの人で”保険について考え(ている人がい)たときに、「そういえば」と一番目に自分の顔を思い浮かべてもらえれば、それで成功なのである。
「勧誘はしない」というのも、言い得て妙だ。
後輩がしきりに言っていた、「まず知ってもらうだけでも。」という言葉も、しっくりくる。
実際、彼がしている仕事もそれに似ている。
まず、人間関係を作っておく。
それを新入社員に体現させているのだ。
彼は心の中で唸った。
いろいろと勉強になった。
同時に、社会人の、そして同業者の先輩として少しは後輩の役に立てたかもしれないな、と思いながら、エールを送った。
とれだけ成功するとしても、生き残っていくのはやはり大変であろう保険業界。
今の気持ちを忘れずに、頑張っていってほしいものである。