決断

彼は、9月末で退職することを、支店長に告げた。

ずっと計画してきて、長い間考えた末の、決断だった。


直前に、彼が世界で一番信頼をおいていた人が彼に背を向けるという、大きな出来事があった。


精神的支柱を失った彼は、辞めるのをやめることすら考えた。
彼の全ての思考は、その人の存在の上に成り立っていたからだ。


支店長の引き留めに、心動かされそうにもなった。


しかし。

ここでぶれてしまっては、人生に満足して死んでいくことができない。


もちろんそんなことは、人生がおわるときになってみないとわからない。
銀行員として、しあわせな人生が待っていないとも限らない。

あくまでも、彼の主観の話である。


それでも、彼は決断した。


"Querer es poder"

彼の好きな言葉である。

意味は、「意思あるところに道は拓ける」といったところだろうか。


「諸行無情」などとは、平安の昔から言ったものだ。

それでも、人生は前向きに進んでいかなければいけないのだ。


過去の自分にも、未来の自分にも誠実でありたい。


「ぼくは今、最高の人生を生きている」


自分にそう言い聞かせて、新たな一歩を踏み出す。