2007-11-01から1ヶ月間の記事一覧

彼の動揺

多文化映像論の講義を終えた彼が教室から出ようとすると、突然後ろから名前を呼ばれた。 誰かに呼び止められるような心あたりのない彼がふいっと振り返ると、そこにはその講義の先生がいて、彼にこんなことを言った。 「いつも一番いい感想を書いてくれてる…

冬休みの話題

クリスマスにはまだ一ヶ月もあるというのに、街はきらきらしたイルミネーションに彩られている。冬休みも近付いた大学構内に入れば、学生たちはガイドブックや旅行会社のパンフレットを片手に、冬休みを利用した旅行の話をするのに夢中になっている。 九州や…

エンクロージャー

私と並んで歩いていた彼が、唐突に、「囲い込みは終わっていない!」と言った。 私は彼を見た。 彼も私を見た。そして更に言った。「既に次へのお膳立てはできている。いつ強制代執行が行なわれてもおかしくはないんだぞ!」 きっと彼は今日、そのような内容…

ちゃこへ

ちゃこが死んだ。 昨日のことだった。 彼女はその報せを、父からのメールで受けた。 いろんな想いが溢れて、止まらなかった。 彼女はわかっていた。 いつか、この日が来ることを。 しかし一方でまた、そんな日は永遠に来ないようにも思われた。 それは彼女の…

観光シーズン

東福寺でドアが開くと、ほぼ満員だった電車が途端に平日の昼前の平穏を取り戻した。 平日の午前中だというのに、人々の東福寺へと向かうこと甚だしい。 紅葉への飽くなき好奇心。 きっと、既に東福寺の橋の上には溢れんばかりの人が押し合いへし合いしていて…

不意

彼は何か深く考えているようだった。 何度かうんうんと唸っていたが、小さな声で確かめるように呟きながら紙にこんな言葉を書いた。 “世界の食料不足は、我々先進国の人間が自らの功罪を省みることなく、またはそれを隠すために敢えて原因をあやふやにし、上…

本棚のせい

今朝から彼は全身の筋肉痛にうんうんと唸りをあげている。それは、一週間程前に彼が散らかりきった自分の部屋を眺めて、 「部屋が散らかっているのは、本を片付ける場所が足りないからだ!」 と高らかに宣言したことに端を発する。 確かに、彼の部屋にある小…

彼、再び他大学の学園祭へ

彼は滋賀にある私立大学の学園祭へ潜り込んだ。その大学の広大な敷地の中にはたくさんの出店があり、とくにその7割がうどんと豚汁に占められているという異様な雰囲気に包まれていたが、彼は適当にそれらマジョリティーの食物をさけて焼きそばやサツマイモス…

今日はアジアン・カンフー・ジェネレーションの新譜『アフターダーク』とフジファブリックの新譜『若者のすべて』が発売される日であった。 それらを大学生協で購入した彼は、早く帰って聴きたいという気持ちのあまり生協の組合員証をカウンターに置き忘れ、…

彼、他大学の学園祭へゆく。

彼は、古い友人の通っている大学の学園祭へといそいそと出掛けていった。 地元から遊びに来た共通の友人と出町柳で待ち合わせ、そこから叡山電車にガタゴトと揺られて着いたところは、彼が何度か訪れたことのある山あいの美しい大学だ。 そこは自由と狂気と…

冷え込み

今日はやけに冷え込む。 朝から空は愁いを込めたような白で、線路の先のほうで地面と交わっている。 霧のような雨が弱く降っていて、自転車で走ると手が凍えた。この秋一番の寒さだ。 大学に着き、教室で私がレポートのことを考えているところに、寒い寒いと…