2009-07-01から1ヶ月間の記事一覧

書を抱えて山を見る

大学生活最後の年の、前期テストが全て終わった。 明け切らない梅雨の、何とも言えない湿度と熱気にくるまれて、彼は大学から帰れないでいた。 それは、"やらなければならないこと"であり、"早くやり始めたいこと"であり、それでいて"億劫なこと"でもある。 …

Vamos a 献血

献血とは、自らの生命を感じるための儀式である。 我々は時に、自分という存在を、心と身体の表面だけで認識してしまうことがある。肉、内臓、骨、血…人間を形成するための必要不可欠な要素を忘れてしまいがちな我々に、献血はその存在を呼び覚ます。 針が刺…

棚ぼた式奨学生

朝から厳しい陽射しが降り注ぐ7月のある日、ふと彼がポストを覗くと、大学から速達が来ていた。 しかも、宛名が直筆である。 「大学から速達?」 身に覚えのない彼は、その封筒を手にとり首を傾げる。 何かの間違いじゃないだろうか。 それとも何か、呼び出…

Valencianos

彼が友人と二人で先斗町を抜けたとき、数人の外国人が話しているのが聞こえた。 外国人の言葉に耳を傾け、何語を話しているのかを探るのは彼の癖だ。 その人たちは、どうやらスペイン語を話しているようだ。 スペイン語好きの血が疼く彼。 外国人たちは王将…

iFeliz cumpleaños!

彼が22歳の誕生日を迎え、数人からプレゼントをもらった。 まず、めんまるさんからもらったのは、彼が最近「絵が描きたい」としきりに口にしていたことを考慮したと思われる“水彩色鉛筆セット”とバースデーカード、そして立派な手作りケーキである。 彼はプ…

『偶然の祝福』

小川洋子『偶然の祝福』を読み終えた。 実に実に、不思議な物語であった。 私には少し、難しかったのかもしれない。 小川氏の語り口は非常に穏やかで、それでいて繊細である。 それはもう触れれば壊れる飴細工のようで、読みながら何度も感嘆のため息をつい…

日食〜eclipse de sol

朝から雨が降っていて、10時頃も空は厚い雲に覆われていた。 ほぼ絶望的だと思われた京都での日食観測は、奇跡とも言うべき突然の雲の切れ間によって実現された。 11時過ぎには、右下からほぼ8〜9割は欠けた太陽を見ることができた。 日食グラスを持たない…

腐れ大学生の堂々巡り

夜行バスで今朝京都に着いた彼は、一緒にNANO-MUGEN FES.に行った友人とさらに他の友人と、午後に三条で待ち合わせてカラオケに行った。NANO-MUGEN FES.帰りの彼らは疲れをものともせず、おかしなテンションで飛び跳ねながら6時間もカラオケを楽しんだ。 す…

NANO-MUGEN2009

横浜アリーナでNANO-MUGEN FES.2009の二日目が行われた。 彼は横浜駅で大学の友人と待ち合わせ、新横浜の横浜アリーナへ向かった。 この日の出演者は、出演順にFARRAH,サカナクション,NADA SURF,THE YOUNG PUNX!,ユニコーン,BEN FOLDS,スピッツ,HARD-FI,ASIA…

下町散策

二日目の東京。 今日、彼は3年ぶりに東京に住む知人に会いに行った。 その人は墨田区に住む60代の男性で、そのおじさんと彼は、彼が高校2年(4年前)の春に上野公園をぶらぶらしていたときに知り合った。 どういう経緯か上野を案内してもらうことになり、なん…

唐突に東京

朝の6時過ぎ、彼は夜行バスで新宿に着いた。 20日に横浜で行われるアジカン主催のNANO-MUGEN FES.に行くため、早めに乗り込んだのである。 早朝から行くところといえば築地市場くらいしか思い付かなかった彼は、都営大江戸線に揺られて築地市場に行った。 …

山鉾巡行の宴

朝から、京都テレビでは祇園祭の山鉾巡行の模様を生中継していた。 四条通から河原町通を北上し、御池通で西に折れて新町通に至るまで、沿道は沢山の人で溢れていた。 彼はどうやら、その中にいたらしい。 四日連続である。 昨夜遅くまで宵山に酔いしれてい…

宵山万華鏡

今日はいよいよ宵山である。 彼は、なんと三日連続で四条界隈を訪れた。 ここまでくるといよいよ阿呆の域に入ってくる。 今日は地元の友人や弟が遊びに来ているので、彼はまた昨日と同じルートで四条通から西洞院通を上がり、長刀鉾や函谷鉾、月鉾、そして蟷…

宵々山の蟷螂

彼は、大学の先輩とゼミの友人と待ち合わせ、昨日に続いて今日も宵々山で賑わう四条界隈に出かけた。昨日よりも時間が早いこともあり、四条通に溢れる人の波はまるで海のようである。人は多いが、爽やかな風が通り抜けていくのが心地良い。 彼らは四条通を西…

宵々々山

彼は、20時半頃に三条京阪についた。 平日の夜だというのに人が多い。 今日は祇園祭の宵々々山である。 彼はだんだんと人の多い方へ吸い込まれ、三条通を西へ西へ歩いた。 烏丸通りにはまだ夜店は出ていなかったが、さらに先の室町通りや新町通には夜店が並…

こんにゃく地蔵

ポテトチップスの“にんにく地鶏風味”が机の上に置いてあった。 それが、ふと見たときに“こんにゃく地蔵”に見えたのだ。 “こんにゃく地蔵” なんだそれは。 こんにゃく好きの人を供養するための地蔵か。 それとも、こんにゃくで作られた地蔵なのか。 はたまた…

御都合主義的憂い

彼は、妖怪人間ベムのオープニング風に、 「お金も時間もたくさんある人になりたーーい!」 と叫んだ。 現在の、時間はあるがお金がないという典型的な貧乏学生の状況を憂いてのことである。 彼の理想とするものは、学生の自由さと社会人の経済力を兼ね備え…

ルーヴル展と憂い

彼は憂いている。 今彼が憂いているのは、財布の中身についてである。 財布の中身も少ないが、貯金も少ない。 夏休みにいろいろな所に出掛けたいと思うと、“心許ないこと生まれたての小鹿のごとし”である。 彼は、来週の祇園祭と東京に行く費用を計算し、「…

寝ネコ

かのジョン・レノンは生前、 「生まれ変わったらネコになりたい」 と言っていたらしい。 一瞬にして誰もが知る有名人となり、プライバシーなどなくなっていた彼にとって、気ままで自由に生きているネコは羨望の的だったのかもしれない。 1980年12月8日に凶弾…

はなの舞 池田屋店

昨日、18時頃、私はなんとなく友人と晩ご飯を食べる約束をした。「どこにいく??どこでもいいよ。」 「池田屋跡にできた居酒屋が今日オープンするらしいんやけど…。」 「あ、そうなの?」 「でも混んでるかもなぁ。近くの居酒屋かごはん屋にする?」 「ん〜…

クマとイヌの入浴

いつもは彼の携帯電話にただぶら下がっているだけのクマとイヌも、たまには風呂に入りたくもなる。日々の汚れが泡となって流れ落ちていくのを、じっと見ている。

四条河原町の反定立

街頭でコンタクトレンズのチラシを配っている女性が、メガネをかけていた。 それは…いいのか??もし、育毛剤の宣伝をしている人の頭がツルツルだったら、ダイエット食品の宣伝をしている人がブヨブヨだったら、きっとその商品は売れないだろう。 その見地に…

脈打つ生命

深夜。 明日出かける準備を終えてそろそろ寝ようかと横になったときである。 ベランダの網戸越しに、排水溝に何かが詰まったときのような、風邪で鼻が詰まったときのような、なんだかとても通りの悪い音がした。 どこかの部屋の洗濯機でも壊れているのだろう…

白樺派

彼とめんまるさんは、京都文化博物館で行われた「1910年代の文学『白樺』の人々をめぐって」という、早稲田大学名誉教授の紅野敏郎氏の講演に行った。 彼の白樺派に対する知識は微々たるものであったが、紅野氏の87歳とは思えないしっかりとした語り口調(半…

衝動買いの社会

大学の生協で、小川洋子『偶然の祝福』と宮沢賢治『銀河鉄道の夜』を買った。 完全に衝動買いである。大学生活も残り少なくなった今、なんだか時間の有限というものを改めて感じているのだ。 そして何故だか無性に、本をたくさん読まなければならないという…

池田屋事件

元治元年(1864)京都三条の旅館池田屋で謀議していた長州藩・土佐藩などの尊王攘夷(そんのうじょうい)派の志士を、新撰組が襲撃した事件。 2009年7月。 そんな池田屋の跡地に、当時の池田屋を多少再現した居酒屋ができる−。 そんなニュースを見てから、はや…