口内炎クーデター
今朝、彼はついに明日が締切のレポートを6本全て書き終えた。
“今朝”と言っても徹夜で書き上げたわけではなく、朝起きてから続きを書いてそれが昼前に終わったということである。とは言え昨日の夜も遅くまで起きていたので、少し仮眠をとってから大学に来たのだという。
しかし、彼は今日、とうとう昼食をとらなかったらしい。これまで口内炎が痛くても、我慢しておやつまでもりもり食べていた食欲甚だしい彼にしては珍しいではないか。彼の説明によると、仮眠をとっていたということを除いても、彼の口には既に4つの口内炎があり、口の中のどこで食べ物を噛んでも激痛が走るのだという。おそらくそれが彼の食欲に作用したものと考えられる。
「言うなればぼくの口の中では今、口内炎による独裁がしかれているのだ。」彼は満足げに自説を語り始めた。
彼の妄想によると、この独裁にに対して彼はこれまで、チョコラBBという反乱軍を投入したがことごとく撃退されて失敗に終わっているのだそうだ。そこで今日は早く寝て、睡眠という市民革命によって口内炎の独裁政権を倒す心積もりなのだという。
まったく、彼の言っていることはいちいち不可解で腹立たしい。
「口内炎にでも襲われて身ぐるみ剥がされてしまえ!」私は心の中でそう言い放ち、湿る空気の中大学をあとにした。