寝坊

 彼はのらくらと夏休みを送って実のあることなどなにひとつやってはいないように思われたが、それは私とて彼に対してそういうことを言える権限があるとは思えなかった。
 今日は、山科にある以前歯を抜かれた大きな病院に行く。はずだった。
 彼同様に自堕落な生活を送っていた私は、夜が更けるまでだらだらと時間を垂れ流し、そろそろ眠くなってきたところで「このまま眠ってしまうと明日起きられなくなるな」という考えが生まれ、それならばこのまま起きていようということになった。そして、次に気が付いたのが、約束の時間を30分も過ぎた昼前の自分の部屋だった。
 大きな病院なので、ひとつズレると大きく日程が変わってしまう。私は慌てて病院に電話をし、なんとか次の予約を10日ほど後に取った。そして、起こしてくれなかった目覚まし時計を、朝の日差しを、世の中すべてを、そして自分だけが完全に悪いのだと解っている自分を、怨んだ。そうだ。私が悪いのだ。早く寝なかった私が、起きていようと思ってしまった私が、眠ってしまった私が、自堕落な生活をしている私が…。勧善懲悪という言葉の漢字がもし“完全超悪”であったならば、それは今の私のことを指す言葉である。
 秋が近付く京都で、私はまたひとつ、やらなければならないことを先送りにして生きている。