パスポート争奪戦

銀行の連続休暇制度により来年2月に一週間連休がある彼は、それを利用してベトナムカンボジアに行こうと考えている。


しかし、なかなか話が進まない。

それもそのはず。
その旅行のメンバーというのが、彼と彼の大学時代のスペイン語クラスの先輩二人(大阪と京都在住、女性)、その先輩の一人の知人(福島在住、女性)、そして彼の地元の友人(男性)という、おそろしいほどにバラバラな顔ぶれなのである。
全員と面識がある人が一人もいない。
そんな状態で話が進まないのは当たり前なのであるが、そこは彼と彼の大学の先輩が時々連絡を取り合ってなんとかしようとしているので、ギリギリどうにかなるかもしれない。
いや、何が何でもなんとかしなくてはならない。


しかし、いざ手続きとなったときが大変である。料金の振り込み、ビザの取得等、全員の足並みが揃わなければ越えられない壁は多い。
準備は早めにしなければならないが、話がまともに進まないままもう12月も半ば。


少し焦りを感じ始めた彼は、とりあえずビザだけでも取っておこうと、地元の友人と共に大阪の領事館にビザを申請した。


ところが、である。
返ってきた回答が、これだ。


「パスポートの期限が、渡航期間後6ヶ月に満たないので、不可。」


なんということであろう。
来年2月に旅行をする予定の、彼のパスポートの期限は7月。


「5ヶ月もあれば十分やろ!多分これがこのパスポートの最後の旅行やなぁ。ふんふふん♪」


と余裕の表情をどことなく浮かべていた彼は目の前が真っ暗になった。
「問題が山積しすぎている!!」


そして、仕事が手につかなくなった。
平日は申請にいけないし、日曜申請に必要な住民票もまた、平日に取りに行かなければならない。
写真を撮る必要もあるし、できあがるまでに時間もかかる。


時間との、パスポート(とビザ)争奪戦である。