梅雨と歯医者

 昨日の夜から雨が降り続いていた。昨日よりは随分涼しい。
 昼過ぎ頃、私は歯医者に向かった。掛かり付けの歯医者に紹介された、山科にある音羽病院というところである。山科駅から無料送迎バスが出ており、交通の便はいい。総合病院らしいどっしりとしたたたずまいが頼もしい感じを醸し出していた。
 紹介状を渡し、名前を呼ばれて奥の部屋で医者を待つように言われた。治療についてどんな恐ろしいことを言われるのかとぷるぷる震えながら待っていると、段々本当に寒くなってきた。これはもしや、車に酔うと思い込んでいるから酔ってしまうというような“病は気から現象”の一種で、震えていることによって寒くなってくるという現象が起きているのではないかと自分を疑いつつ、ふとクーラーのリモコンに表示されている温度に目をやった。なんと22℃であった。そして驚くべきことに、その横には

「当院はマイナス6%プロジェクトに協賛しています。各自でクーラーの温度が28℃になるように設定してください」

という貼紙が平然と貼られている。なかなか面白い冗談だ、とでも言ってほしいのだろうか。
 私は釈然としない気持ちで、恐さと寒さにいじめられながらぷるぷると医者の登場を待った。
 
 結局、満を辞して現れた医者のおじさんは、私が想像して震えていたような恐ろしいことは全く言わなかった。私は胸を撫で下ろしたが、それでも治療は受けねばならぬ。ぬぬぬ。先は長い。
 
 病院をあとにした私は、山科から電車で大学へと向かった。遠い医者にいくという一仕事を終えたからといって、私は勉学を疎かにはしない。火曜日の5限を2週連続でサボタージュしていた“彼”とは違うのだ。
 雨があがって、飽和しかけた空気が身体に纏わり付く。ドアを開けると、外の空気が一気に流れ込む。今年は梅雨が短いという。