SAGA

 彼は、吉野ヶ里遺跡の高床式倉庫の下で頭をしこたま打ち、既に残り少ない脳細胞の死滅を加速させた以外はこれといって変わったこともない様子である。
 朝8時半、彼は新門司港に降り立った。そして吉野ヶ里遺跡で物見櫓に登ってはしゃぎ、夢中になって勾玉をつくり、挙句の果てに頭を打った。そしてその後、多久市というところを訪れた。
 
 
 今回彼が佐賀に行ったのは、ほかならぬ彼の弟の晴れ姿を一度見に行ってやろうという目的があったからである。
 彼の弟は、今佐賀で開かれている高校総体にアーチェリーの地方の県代表として出場している。
 「マイナーな県から、アーチェリーというマイナーな競技で参加するマニアな弟。それが見られる最後のチャンスではないか。」彼は興奮気味に語った。

 
 そう、彼は、頭を強打したのだ。
 私は、黙って目をそらした。