九州へ

 彼は今大阪から新門司港へ向かうフェリーの中にいる。
 深夜、彼が消灯時間も過ぎたのでロビーで本を読んでいると、近くのテーブルに座っている数人の若者に中高年女性がとうとうと語っているのが聞こえてくる。
 その女性は、「女とはなにか」「犬を飼うとはどういうものか」など脈絡のない話を大声で続ける。しかもその声が、ネーミングセンスが微塵もないことや、いろんな人を独断で地獄へ落とすことで有名なオールバックの占い師に似ているためさらにタチが悪い。
 彼は、伊坂幸太郎の『魔王』のページをめくる手を止め、そろそろ寝ようかと考え始めた。