予選突破

 彼は感激した。
 彼の弟が、遂に高校総体アーチェリーの予選を突破したのである。
172人中たった64人しか通過できない予選。
 彼の弟は、中盤くらいからは良いときで62位、悪いときで77位の間を行き来し、彼にスリルと諦観と希望と興奮と途中経過を貼り出す掲示板への行き来と的が遠くて見えないもどかしさをこれでもかというくらいに味わわせたが、終わってみるとなんと予想を上回る順位で、見事に予選を突破したのであった。因みに団体では危なげなく決勝に進むことが決まった。

 彼は、それをまるで自分の身内が成し遂げたかのようによろこんだ。実際、実の弟なのだが。

 これで、彼の弟は明日の個人決勝戦のトーナメントに出場することができるのだ。「快挙だ快挙だ」と彼は手放しで喜んでいる。


 私はといえば、実家で特にすることもなく、彼の報告を聞いては記す作業を延々と続けている。すこしばかり空虚な気分を味わう。