volver〜帰郷〜

スペイン語の大層なタイトルがついているが、なんのことはない、彼が4ヶ月振りにちょっと里帰りしたというだけのことである。


彼についてひとつ申し添えておこう。
彼は、今年成人式を迎える、いわゆる“新成人”である。
私は彼がボリビア人であろうとセントビンセント及びグレナディーン諸島人であろうと、はたまた火星人であろうと月の裏から来た怪人であろうと一切感知しないが、どうやら彼が“新成人である”ということだけは確かなようである。


12日、土曜。夜には彼の卒業した高校の同窓会が開かれる。それに間に合うよう、彼は午前中にひとつ講義を受けた後、昼過ぎの電車に滑り込んだ。そしていくつかの駅でこっそりと電車を乗り換え、夕方には彼の故郷に着いた。


彼は過去を振り返ることを潔しとせず、常に過去と決別しながら生きてきた。
したがって、同窓会などという場にのこのこ出ていってまぬけ面をさらすのは本来彼の性分ではない。
しかし、彼の認識においては、高校時代というのは比較的今の彼と近いところにあって、しかも、今の彼の形成に良くも悪くも最も寄与したところであるため、過去ではなく現在の彼の一部であるのだという。御都合主義も甚だしい。


その同窓会はホテルの広間で行われた。彼は高校時代の友人と共に自転車を飛ばしてそこへ向かった。が、あまりに自転車を飛ばしたために少し早く着きすぎてしまいそうになり、「あんまり早く行き過ぎると張り切っていると思われて、名前も忘れたような人に陰で笑われるのではないか」というネガティブな意見の一致により、途中のコンビニで用もなくうろうろして時間を潰した。

いざ会場に着くと、懐かしい面々がそれぞれに懐かしそうな顔をしながらうごうごとしていて非常に混み合っていたため、彼は同じクラスだった男子たちと隅っこのほうに固まった。
彼が所属していた学科はその高校の中でも特に男子の少ない学科であったため、男子は疎外されながらもミツバチのごとき団結力で細々と生きてきたのだという。そのため、卒業してからも男子は年に2回は集まって会っている。
ただでさえあまり久しぶりな気はしないのに、さらにその一部とは年末にも会ったばかりであったから、彼は危うく特に何の感慨もなくだらだらと時間を過ごしそうになってハッとした。
同窓会には、他のクラスの人々もたくさん出席しているのである。見慣れた顔ばかりとのたのたしている場合ではない。


彼は高校時代はよく話をした同じクラスの女性陣と言葉を交わし、他の科の友人たちとほとんど2年振りの再開を懐かしんだ。
友人の皿の料理を喰らい、友人のコップのジュースを飲み、その恩を仇で返すかのように何故か跳び蹴りを見舞わせたりしながら彼は大いに楽しんだ。楽しみすぎて、気付いたときにはもう会場には誰もいなくなっていた。


その後の彼は私の関知するところではない。
同じ学科の男どもと共にカラオケに行き、翌3時半頃まで一通りうぉらうぉらと騒いで楽しくなったあとそれぞれ家路につき、午前4時頃に眠りについたというのが最も有力な説である。