「通過儀礼やで」

彼は得意げにそう言うが、何のことはない、一定の年齢になったオコサマが着慣れぬ衣装を身に纏い、ナントカ長やらの話もそこそこに、地元の友人たちとの再開を懐かしむ“成人式”のことである。


午前9時。彼は“怒涛の目覚まし作戦”によって目を覚ました。
“怒涛の目覚まし作戦”とは、あるときは目覚まし時計を五つ程セットし、またあるときは誰かに彼が起きるまで電話をしてもらうというようにその時々の状況によって形態を変える、彼が遅刻をしないための目覚まし作戦である。
そしてこの日の作戦は、“弟に起こしてもらう”という史上稀に見る安直この上ないものであった。


彼は、祖父の運転する車に友人三人と乗り合わせて会場へ向かった。
会場に着くと、すぐさま懐かしい友人たちの顔が目に飛び込む。


それから約4時間。
彼は成人手帳をもらったり、うろうろして知人を探したりうろうろして写真を撮ったりうろうろして友人とはぐれたりうろうろしてうぉらうぉらしてごろごろなってぐにゃぐにゃしながらぶるぶる震えたりして成人式を満喫した。


やがて、そろそろ会場からすべての新成人が姿を消すのではないかと思われた頃、彼らは近くの複合型スーパーに移動し、遅い昼食をとった。
夜には小学校の同窓会がある。愚かな彼はそれに出席するため、友人と共にそこで時間を潰した。
そして時計が午後6時をまわった頃、彼らは成人式帰り丸出しのスーツ姿にまぬけ面を引っ提げて、同窓会会場となるらしい聞いたこともないような店を探しながら歩き出した。