城南宮まつり

彼は、下宿から自転車で20分ほどのところにある城南宮に行ってみた。


今日、城南宮はお祭りムードに包まれていた。
昼間からたくさん出ている出店をのぞいて歩き、若い衆が軽やかなステップで大きな神輿を曳くのを目の当たりにして、彼の気分は高揚した。
神輿を追いかけて城南宮を出れば周辺の家の軒先には提灯がぶらさげられ、至る所に人々が集っている。

町のそこかしこにはそれぞれの町内の小さい神輿が出され、細い路地を抜けていくとどこからともなく人々の笑い声が聞こえてくる。
彼はなんだか、彼の経験したことのない遠い昔にタイムスリップしたような気分になり、楽しくなった。


城南宮は、その昔、1086年に白河上皇院政を始めた辺りであるらしい。
さらに、かの鳥羽伏見の戦いが行われた場所でもあり、その上熊野詣で発祥の地でもあるのだとか。
彼は、かつて歴史で習った事柄が実際に行われた場所が、こんなに身近にあったということに感動し、不意に知識と実体験が一致して生じる不思議な感覚を味わった。
ちょうど、あとひとつで完成するパズルの最後のピースを思わぬところで発見したような感じである。
それと同時に、ものごとを教科書の上で習っただけではいかにピンと来ていなかったかという事実にも気付き、ハッとした。しかしすぐに忘れた。


彼は、城南宮の紋に気をとられていた。
それは、丸が二つと三日月が象られた紋で、ちょうど月と太陽と地球のように見える。
神輿を担いでいた若い衆のはっぴにも、その紋があしらわれていてなんともかわいらしかった。
彼はそのはっぴが少し羨ましかったが、だからといって欲しいわけではなかった。たとえあったとしても、着る機会もなければ飾る場所もないからである。


彼は、城南宮の藤袴を堪能して家路についた。