歯医者さんとワクワクさん

二時間近くもねっころがされたまま口の中をカチャカチャといじられるのは、決して楽しいことではない。

その上、先生が「ゴメンねー、二、三日すごく痛いと思うけど頑張って!」と言うほどの痛みが数時間後には待っているのだ。


歯が痛いときに「冷静になる」とか「明るく振る舞う」というのは無理な話で、たいていイライラしているかひどく暗い気持ちになっているかのどちらかである。

それでも、これから私は大学にもどってゼミの作業を紳士的にこなさなければならない。そして授業を挟んで、またゼミの作業だ。
彼は今頃のうのうと三限の授業を受けているのだろう。


時間が経つほどに増す痛みと戦いながら、ゼミの仲間の前でどこまで平静を装っていられるか。
誰も知らない内なる自分との戦いに、妙なワクワクが湧いてくる。

ワクワクといえば、私が幼い頃に某放送協会で大活躍を見せていた“ワクワクさん”は、ご健在なのだろうか。瞼の裏にあの永遠の少年が、毛むくじゃらのハイテンション生物と共に映し出される。あの生物の名前は確か…あぁ、しかし既に強大なるやるせなさが口の中を覆って、ワクワクさんたちさえ脳裏から奪い去っていってしまった…。