雨の精

雨というものは人に様々な影響を与える。
少し出掛けるだけでも足が濡れるし、地面も濡れて滑りやすくなる。傘をさして自転車に乗れば事故に遭う確率が上がるし、靴には水が染み込み、外で行うイベントはことごとく中止になる。


かくいう私も今日、雨の影響を受けてなんだかおかしなことになった一人である。
雨の降りしきる昼ごろ、歯医者で治療を終えた私は、何か食べようと近くのファーストキッチンに入った。
そこでロースカツバーガーの単品を注文し、財布を開けたときに気付く。


金がない。


なんと、さっきの歯医者で代金のお釣りを受け取り忘れていたのだ。それも7000円分も。
払った時点で安心してしまっていたのと、外に置いた傘を忘れないようにそっちに気を取られていたことが原因だろう。


とっさに鞄の中の封筒に金がいくらか入っていたことを思い出し、何食わぬ顔で支払う。


ファーストキッチンから出た私は傘を差し、ロースカツバーガーを食べ食べ、しとしとぴっちゃんと歩く。
そして今日行く予定だった店の前につくと、なんと閉まっているではないか。
定休日は日曜のはずなのに、きっとこの土砂降りのせいで臨時休業となったのだろう。


靴には雨水が染み込み、お釣りはもらい忘れ、目的の店は閉まっている。
笑うしかない。


私は肩を落として、来た道を戻り、歯医者でお釣りを受け取る。

そして、以前から気になっていた河原町OPAの裏にあるバーのような店(380円で定食が食べられる)に行ってみる。肉定食を注文して食べていると、隣の席にいた老人が話しかけて来た。

その老人はどうやらどこかの商社の元社長らしく、昼間からビールをのんでご機嫌だ。
話によると、かつてはいろいろな大学に、就職セミナーの講演に行っていたらしい。
雨が降っているのですぐに店を出ても仕方がないと思い、私はその老人と会話の話に耳を傾けた。

仕事の話、英語の話、ピータンの作り方、中国語の話、宗教戦争について、就職の心得…とどまることを知らない老人の話に相槌をうち続け、多分人生を豊かにした。


約一時間半のレクチャーを終え、定食の代金を払い店を出ようとすると、その老人が名刺をくれ、「大学にでも、いつでも呼んでくれ。ちゃんとした話をしに行くから」と言った。
外に出ると、もう雨はあがっていた。



今日起きた、晴れの日にはならなか巡り逢えないと思われる様々な出来事は、すべて朝から雨が降っていたせいに違いない。
その証拠に、昼過ぎに雨があがってからは変わったことはこれといって起きておらず、私はおとなしく大学で講義を受けただけである。