御都合主義的憂い

彼は、妖怪人間ベムのオープニング風に、
「お金も時間もたくさんある人になりたーーい!」
と叫んだ。
現在の、時間はあるがお金がないという典型的な貧乏学生の状況を憂いてのことである。


彼の理想とするものは、学生の自由さと社会人の経済力を兼ね備えた身分である。

彼は少し考えた後、それにあてはまる身分は“フリーター”ではないかと気づいた。
しかし、フリーターには社会的身分、福祉、安定性がなく、将来への不安さえオマケについてくる。
これもまた、彼の理想とは違うものであった。


ところがそれらが一応ではあるが備わっていると思われる“正社員”なる身分には、自由さが欠損している。
日本社会の罠だ。


彼が留学先のスペインで見た人々は、
昼はシエスタで休み、
夜は残業をせず家族と過ごし、
日曜は店さえ開けず、
夏はバカンスで一ヶ月ほど留守にする、

という素晴らしき毎日を過ごしていた。
少なくとも表面上はそう見えた。
しかしスペイン人をいくら羨んでも、彼が働くのは日本の片田舎だ。


だから彼は現在、残された“学生時代”を余す事なく満喫することを目標に生きている。

「金は返せるが、時間は取り戻せない。」
と、彼は時々自分に言い聞かせるように呟いている。

どうやら、「金は借りてもいいが身内以外には借りるな」という戒律を守っているらしい。
なんとも御都合主義的発想で、彼は思い残すことなく学生時代を終えることができるのだろうか。