学生論集

彼の卒業論文が、“学生論集”に載るかもしれない。


“学生論集”とは、毎年学部ごとに、優れた演習論文(卒論)を先生たちが選んで一冊に集めたものである。
そこに選ばれた論文は大学のデータベースに残り、図書館にも蔵書されるのだ。


彼は今日、たまたま先生に用事があった友人について研究室を訪れた際に、「ああ、君と連絡を取ろうと思ってたんだ」と軽い感じでそのことを知らされた。


しかし、彼の論文が学生論集に載るためには、いくつかの障害がある。
まず、彼が所属しているのは経営学部のゼミだが、彼自身は経済学部の学生であるということだ。こればっかりは、ゼミの先生にして「頭が固い」と言わしめる大学の事務が了承するかどうかにかかっている。
次の障害として、彼の論文は16000字ほどあるが、学生論集に載せる論文は12000字程度でなければならないということがある。つまり、学生論集に載るとすれば、彼は論文を4000字ほど削るという作業をしなければならない。
しかし、もうひとつの障害として、その編集時期が彼の卒業旅行の時期と重なっているという大きな問題が待ち構えているのだ。


学部の違い、文の長さ、編集時期、まさに三重苦である。


彼は、目の前に立ちはだかっている壁を乗り越え、卒業論文を学生論集に載せることができるのか…。



一つ目の障害は彼にはなんとも手が出せないものであるが、もし載ることになれば、年明け以降、彼は他の学生よりもかなり急いで校正を行わなければならない。
そしてそのためには、彼の論文が学生論集にのるかどうかに関わらず、今年中に原稿を16000字から12000字に削ってゼミの先生に提出しなければならないのだ。


しかし彼は、既に就職先の銀行から出された資格の勉強で手一杯であり、それすらままならぬのに年末年始には様々な予定を組み込んでしまっている。
そのうえ30日に地元で行われる忘年会に至っては彼が幹事であるにもかかわらずまだ店が決まっていないという危惧すべき状況なのだ。

彼の精神はもはやパンク寸前…いや、もうパンクしてしまっていると言っても過言ではない。