スペイン語暗誦コンテスト

彼は、今日大学で開かれたスペイン語暗誦コンテストに出場した。

スペインの詩を暗誦し、その暗誦度や表現力などが審査される。


彼は二年前にもこのコンテストで優勝したことがあるが、去年はやむを得ない理由により出場が叶わなかった。
そして、今年は学生生活最後の年である。


今回のコンテストへの思いを「一度優勝した者として、出るからには優勝しなければならない」と語る彼は、その目標の実現に向けて毎日練習した。


毎日、歩きながら、自転車に乗りながら、彼は詩を暗誦した。
擦れ違った人々は、意味不明の言語でぶつぶつと呟く彼を思う存分訝しんだことだろう。


度重なる練習は、彼に「誰よりもたくさん練習した」という自信を与えた。

しかしその自信は、転じて「こんなに練習したのに“ダメだった”なんてことは許されない!」というプレッシャーにもなり、彼を苦しめた。


前夜には“なかなか眠れない”という、彼が今までほとんど経験したことのない現象も発生したが、結果として、彼は優勝した。


そして彼は言う。
「どんなに緊張しても、練習の回数は自分を裏切らない」と。


そんなことを言いながら、親睦会において出された料理の一つである唐揚げを、持参したビニール袋にせっせと詰める彼。
そのあまりに意地汚い姿は、彼が優勝したことによって涙をのんだかもしれない他の出場者に決して見せられるものではなかった。


彼は言う。
「あの唐揚げは実に美味かった。二日分のおかずになりました」と。



とにもかくにも、今回の優勝で、彼は学生時代に出場した三つのスペイン語の大会すべてにおいて優勝したことになる。