サザエシンドローム

彼は、大学生協のレジに紅茶ジューCを置いた。


レジのバイト学生は、ピッ、ピッとそれを読み込み、値段が表示される。


それをよそに、なにやら鞄の中を探る彼。


そして、少し間が開いてから、こう言った。





「すみません、サイフ忘れました。」





彼とバイト学生の間に、それ以上の会話は必要なかった。



彼らは静かに頷き合い、それは同時に、別れの会釈となった。




去り際の彼の目の隅には、いましがた紅茶とジューCに貼ったシールを剥がすバイト学生が映っていた。


さらば、紅茶。


さらば、ジューシC。



生協から出て、刺すような夕方の外気に触れた彼の頭の中には、サザエさんのオープニングテーマが流れていた。




サイフを忘れることは、決して愉快ではない。