つかの間の永遠
彼は、引越しの準備をしている。
引越しの予定は3月だが、2月中ほとんど部屋にいない彼は、今のうちに大まかな準備を進めておかなければ間に合わないのだ。
作業は進む。
本棚の本を、
大学時代のノートを、
集めたCDを、
大学時代に観た映画や旅行に行った先のパンフレットを、
書き溜めたメモ帳を、
いろんな人とやりとりした手紙を、
細かく書き込んだ手帳を…
まとめてダンボールに入れていく。
だんだんと積み重なっていくダンボール。
4年間の思い出があちこちに染み付いた部屋が、どんどん空になる。
“彼という人間を具現化した部屋”が、だんだんと無機質な空間へと変化していく。
それをやっているのは、他でもない彼自身だ。
思い出されるのは、この部屋で過ごした日々の記憶。
彼の、4年間のすべてが、この部屋とともにあった。
そしてそれは、彼の今までの人生で最も輝いていた時間だった。
あと何日かすれば、二年前に新しく買い足した本棚を解体して、壁のポスターやコルクボードもはずして、彼の部屋は、彼自身が見慣れない空間になる。
彼は、深夜に独りで泣いた。
そのことに自分でも驚きながら、泣いた。
そして、残されたほんの僅かな“大学生”という時間を、たいせつにたいせつに、生きていこうと思った。