疲弊困憊初業務

研修を終えて初めての支店業務を終えて、彼はふらふらに疲弊している。


覚えることが多過ぎて、頭がパンクしそうである。


そもそも彼は、午前中だけで、すでに一日の全ての体力を使い果たしたと思うほど疲れていたのだ。


それを感じさせるのが、このミスである。


正面入口で挨拶をしていた彼は、客に「住所変更の記入用紙はどこですか?」と聞かれた。
彼はそれを聞いて、窓口の人に「駐車料金の用紙はどこですか」と伝えてしまったのだ。
“そんなもんあんの?”と思いながらも。


どうやったら“住所変更”と“駐車料金”を間違えられるのか、不思議で仕方がない。


もう、“疲れ”以外に答えはないだろう。


しかし、午後からも彼のやることはさらに増えつづけた。


「これをこれから毎日やってもらう!でも査定入った時にこれが数字と合ってなかったらそれだけで融資の査定は0や!全員のボーナスに響くからな!わかったな!」


そう言われても、彼は「はい」としか言いようがない。
もうあらゆることに必死である。



彼は今日、17:50に総合職の中では一番早く銀行を後にしたが、17:00を過ぎてからはもう“帰りたい”という感情しか湧いて来ないほどに疲れ切っていた。


そして、誰にも聞こえないような声でこう言った。


「ほんま、疲労こんぺいとうやで…」



今彼が思い浮かべていることは、“早く仕事に慣れて楽になりたい。もしくは、早々に社会から脱落して堕落した生活を送りたい”という、100人に聞いたら100人が「前者」と答えそうな二択である。


一週間は長い。


仕事に慣れるには、さらに長い期間が必要だ。


頑張るしかない。