Da me libre
定時の17:00を大きくまわり、18:15を過ぎた辺り。
取り立てて今日やらなくてはならない仕事もなくなったので、帰る準備を着々と進めていた彼に上司が尋ねた。
「お前、そうやって帰る準備して、俺が帰れて言うん待ってんのか。」
彼は、臆せず本音で答えた。
「はい。」
呆れる上司。
「はい、てお前、きかれて“はい”て答えるやつ見たことないわ。もう死ねよ。はぁー、もうええわ、帰れ。」
「お前な、普通、“なんかやることないですか”とかきいてくるもんなんちゃうん?まぁもう今日は帰っていいし、やる気ないんやったらそれでいいけど。」
彼はひそかに憤った。
なぜそんなことを言われねばならぬのか。
いくら早く帰りたがるとはいえ、時間内ならばやる気だってある。
したがって、時間外において「やる気がない」などと言われる筋合いはない。
もともと、やる気を出すべき時間ではないのだから。
しかも、彼は残業代よりも夕方の自由を重んじる人間である。
拘束された代償に少しばかりの残業代を上乗せされたところで、「最低限当然のこと」としか思っていないし、だらだらと残って惰性で仕事をしている者が評価されるのならそんな馬鹿馬鹿しいことはないと考えている。
特に彼はまだ何もできない新人なのだ。
そんな彼を時間外に残らせてちょっとした用事をやらせて、誰のメリットになるというのだ。
無駄な残業代を支払わせて、上司自身が遅くまで残って必死に尽くしている会社に対して損失を与えるだけではないか。
やる気はある。
でもだらだらと残っているつもりはない。
帰って何をするのかは彼の自由だ。
そして、残っているのなら残業代はきちんともらう。
彼の上司は、その辺の理解がイマイチできていないようである。