海沿いと五月
「ほら、仕事とプライベートって別じゃない?」
すれ違った二人組の女性が言っていた。
当たり前である。
当たり前のはず、なのだ。
しかし彼は昨日、休日にも関わらず勤め先の“体育系イベント”に参加させられていた。
せっかくめんまるさんとも休みが重なった土曜日は、イベントが終わって気づけば夕方である。
「プライベートはどこに行ったのだ!」彼は憤る。
それでも彼は、原付きを飛ばしてめんまるさんの家に向かった。
そして、ご飯をご馳走になった。
めんまるさんが仕事だった今日も、めんまるさんが帰宅する夕暮れ時に彼は原付きを飛ばした。
そして、ご飯をご馳走になった。
あっという間に時計は22時をまわり、海沿いの道を帰る。
観覧車が綺麗で、工場が機械的で、なんだか飛んでいるような気持ちにならなくもない。
大声で歌う。
気持ちがいい。
最近彼がよく歌っているのは、奥田民生氏の“イージュー☆ライダー”だ。
何もそんな難しいこと 引き合いに出されても
知りません全然 だから 気にしないぜ とにかく行こう
気を抜いたら ちらりとわいてくる 現実の明日は やぶの中へ
僕らは自由を 僕らは青春を
気持ちのよい汗を けして枯れない涙を
幅広い心を くだらないアイデアを 軽く笑えるユーモアを うまくやり抜く賢さを
彼がこの曲を知ったのはつい最近のことなのだが、なんだかとてつもなくホッとさせられるような曲なのだ。
彼はこの歌を聞いて、月曜日に向かってざわつく心を鎮めている。