novios

向こうのほうで高校生の男女がベンチに座り、淡い青春に爽やかな花を咲かせている。


駅前の地下広場。
その端の、人目のつきにくいところでありながら彼のちょうど対角線上で高校生たちは青春を謳歌している。


仲良く話し、手を取り合い、大変楽しそうである。
それでいて、二人とも全くちゃらちゃらしていない。
初々しさと恋の甘酸っぱさを足して2で割ったものを画材にして描いた絵のような光景である。


もし、その場にいたのが寂しい心を持て余して街中で見かけるカップルに片っ端から「今すぐ別れろ」と念力を送っているような独り身の人間なら、その広場の一角に咲いた可憐な青春の花を一瞬でドライフラワーにしてしまうほどに、嫉妬とひがみを足して2乗したくらいの炎を燃やしていたことだろう。



しかし彼は動じない。

なぜなら、彼は余裕ある大人だからである。


誰に見られているわけでもないのに、紳士然とした態度で本を読む。
頭に入らない。
ちらちらと向こうを見てしまう。
少し距離があるので、よく見えないのが余計に彼の心を刺激する。
彼にもあんな時代があったのだろうか。
思い返すのも恥ずかしい。



それにしても、彼はかれこれ2時間弱もめんまるさんを待っている。


早帰りの第二、第三水曜日はいつも彼がめんまるさんの仕事が終わるのを待っているのだが、そんな日に限って、めんまるさんの仕事はなかなか終わらない。
会っている時間より、待っていた時間の方が長いこともままある。


そうして疲れが溜まって、やり場のない感情をめんまるさんにぶつけてしまうので厄介である。


彼には今よりもさらに苛酷な精神鍛錬が必要なようだ。