イタリア

彼は、睡魔と戦いながらスーツケースに荷物をつめる。


友人Kと行くイタリアの旅が、いよいよ明日からである。


しかし、ここ最近の彼は仕事が忙しすぎて、家に帰ってきたら何もせずに寝てしまうという生活を送っていたため、準備がまったくできていない。


元来、旅の準備は直前ギリギリに行い、ほとんど寝ずに出発するスタイルを推奨してきた彼であったが、それは間違いであることに今さら気づいている。


体調面と忘れ物のリスクは計り知れない。


ところで、彼が向かうイタリアは、現在、世界で最も話題の場所とも言える。


ギリシャ発の経済危機がイタリアにも波及し、国債の利回りは危険水準、内閣支持率はがた落ちし、デモが頻発。そして先の首相交代。


為替は先の読めない動きをし、彼の仕事にも多大な影響が出ている。


つまり、旅行先として少し不安だということである。

しかし、彼は「こんなときこそ、行くべきだ。実際に行ってその国の空気を感じることができるなんて、貴重な体験だ!」と言う。


たしかに、財政危機で世界を巻き込んで傾いている経済規模EU第3位の国に行く機会なんてなかなかないだろう。


しかし。
昨日、彼らがイタリアに到着する日とその次の日に、イタリア全土の公共交通機関を対象とした大規模なストライキが発表された。


最悪の場合、彼らは経由地のパリからイタリアに飛ぶことができなくなる。


ただでさえ、出発の4日前に友人Kの祖母が亡くなるというアクシデントもあり、イタリア行きも一時は危ぶまれたのを乗り越えたというのに、苦難の多い旅である。


さて、この旅はどんな旅になるのだろうか。
彼からの報告を待ちたい。