レポート再び

 彼はもくもくと勉強している。


 昼休みだというのに、彼はおにぎりをもぐもぐさせながらテスト課題にもなるというプリントの山を読み耽っている。

 彼の体調は、ようやく快方に向かっているようである。しかし、彼はそれがわかるやいなや次のレポートに取り組み出した。提出期限は来週水曜日らしいのだが、なんでも課題よりもひとつ余分にレポートを書いて提出したいのだという。まったく見上げたものだ。少しおかしいのではないか。


 彼はおもむろに鞄から本を取り出した。表紙には『批判経営学−学生・市民と働く人のために』と書かれている。
 

 彼の通う学部では二年生の後期からゼミに所属することになっている。そこで彼は、経済学部であるにもかかわらず、経営学部のゼミに所属することになった。なんでも、どうしてもその先生の元で学びたかったらしい。しかしそのゼミに所属するのは、彼以外は全員が経営学部の学生である。彼の取り出した本は九月から始まるそのゼミにおいて教科書となるものなのだが、ほかの経営学部生に劣らぬよう、また授業の内容についていけるよう、夏休みのあいだに読んで勉強しておこうという目論みで早くも手に入れたのだという。まったく、彼の通っている自動車教習所の教官に「予習の鬼か!」といわしめただけのことはある。
 

 彼はその本から、今回のレポートに使えそうな部分を探し出してはチェックをいれている。私のことなど眼中に無いようなので、私は次の講義に向かうことにする。あ、その前に、トイレに行っておこう。

批判経営学―学生・市民と働く人のために

批判経営学―学生・市民と働く人のために