パッション検定

「検定に申し込んだはいいけど、夏休み前に比べて格段にすぺーん語の能力が衰えている。」
彼が誰にともなく聞こえよがしに、言い訳のようなことを呟いている。すぺーん語とはおそらくスペイン語のことで、検定とはそのスペイン語検定のことである。彼はその検定の4級に申し込んだらしい。


「夏休みはすぺーん語の勉強しまくるぞ〜」
彼がそう意気込んでいたのは、もう二ヶ月ほど前のことになる。そして彼は見事にやり遂げた。「言うは易し行うは難し」という過去の偉い人の提言を身をもって実践し、三日坊主という偉大なる功績を再現した。故に彼は呟く。冒頭の台詞を。呟いたところで仕方がないのは彼自身がよくわかっているはずである。検定料の4000円はどぶに捨てたわけではない。彼はやってくれるだろう。ダ・ヴィンチ9月号の森見登美彦特集を読むのはその充電のためだろう。授業中に携帯電話からフジファブリックの『パッション・フルーツ』が流れ始め、教室中の怪奇の眼差しをほしいままにしたのも、その恥ずかしさを全て勉強にて昇華させるためなのだろう。


フジファブリックは恥ずかしくない!恥ずべきはその歌を恥ずかしいと思うお前のいやらしい心や!」
彼は私をおとしめるべく詭弁をふるうが、彼の耳がその羞恥心から真っ赤になっているのを、彼自身が一番よく知っていることだろう。

パッション・フルーツ(初回限定盤)

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