彼、他大学の学園祭へゆく。

彼は、古い友人の通っている大学の学園祭へといそいそと出掛けていった。


地元から遊びに来た共通の友人と出町柳で待ち合わせ、そこから叡山電車にガタゴトと揺られて着いたところは、彼が何度か訪れたことのある山あいの美しい大学だ。


そこは自由と狂気と酒が混沌とした中にこの世のありとあらゆる色をねじ込み、そこから轟音と煮汁が溢れ出しているような場所であった。


阿波踊りの集団がところ構わず「いやっさいやっさ」と練り歩くとすれ違い、狂ったギターの爆音に鼓膜を麻痺させながら、目が完全にイッてしまって茫然自失で全裸でふらふらしている男を目の当たりにして、彼は思った。この学園祭に来ないことは、人生において多大な損失を被ることを甘んじて受け入れるのと同じことだ。来てよかった。
そして同時にこうも思った。人生においてこれほど関わらなくてよい世界というのも珍しいのではないか。来なければよかった、と。


彼等は、入口近くにあるステージのすり鉢状になっている客席に座って狂気に満ちた映像作品をしばらく観ていた。しかしこのままでは凍え死んでしまうと、ぷるぷる震える足を踏ん張り、すっかりその体内温暖効果も切れたうどんの空容器を捨ててから、電車に乗り込んだ。