ちゃこへ

ちゃこが死んだ。

昨日のことだった。


彼女はその報せを、父からのメールで受けた。
いろんな想いが溢れて、止まらなかった。


彼女はわかっていた。
いつか、この日が来ることを。
しかし一方でまた、そんな日は永遠に来ないようにも思われた。
それは彼女の強い願いであり、沸き上がる恐怖への抵抗でもあった。



ちゃこは、器量が良くて愛嬌のあるべっぴん犬で、彼女の実家で暮らしていた。
彼女が物心ついたときにはもうそこにいて、ずっと彼女の成長を見守り続けてきた。
そんなちゃこに、彼女も力いっぱい応えた。
いろんなことがあった。
彼女にしかない、ちゃことの思い出。
彼女の人生はずっと、ちゃこと共にあった。



彼女はちゃこがだいすきだった。
街やテレビで似た犬を見かけると「ちゃこちゃこ」と喜び、家ではよくちゃこの仕種や表情を真似して遊んでいた。
彼女が犬の絵を描けば、それはいつもちゃこの絵になった。
彼女の大学受験のとき、家に届いた受験票をちゃこが食べてしまったこともあった。それすら、彼女は誇らしげに話した。



いつの間にか、自分よりずっと早く老いていくちゃこを、今度は彼女が見守っていた。

長い間、ちゃこはみんなにしあわせをくれた。
きっと、ここらで自分の役割を終えたと感じたのだろう。


まさに昨日、彼女の両親が実家から京都に遊びに来ていた。彼女は両親にあい、近頃ちゃこの元気がないことを聞いた。そして夜、両親が帰ると、ちゃこは息を引き取っていたのだという。

きっとちゃこは昨日、最期に彼女にあいに来たのだ。そして楽しそうにすぴすぴと鼻を鳴らしながら、みんなと一緒に京の街を闊歩していたのだ―そう思えてならない。




今朝、彼女は旅発った。

今度は彼女がちゃこにあいに行く番である。

自分の悲しみと向き合うために。

ちゃこに、最後の「ありがとう」を、そして「ずっとずっとだいすきだよ」という気持ちを伝えるために。

それは彼女にとって、実際の距離以上に長く険しい旅になるだろう。それでも彼女はきっと、前を向いて進んでいけるはずだ。

ちゃこからもらった宝物を両手いっぱいに持って、えがおで、すぴすぴと鼻を鳴らしながら。