二夜連続の同窓会

夜、彼は小学校の同窓会に出席した。
過去を振り返ることを潔しとせず、常に過去と決別しながら生きているはずの彼が何故過去の再現ともいうべき8年も前の同窓会に姿を現したのかというと、それは彼の友人に頼まれたからである。彼は頼まれると弱い。


彼の友人は、「大人になり、綺麗になったかもしれないかつての同級生たちに会いたい」という破廉恥な好奇心と、「これを逃すともう一生会えないかもしれない」という薄っぺらい危機感によって同級生出席する決意をし、若干の心細さのため彼にも来てくれるように頼んだのである。


同窓会は、食べたり飲んだり撮ったりしながら適当に進んだ。
「8年振りでみんな見た目はそこそこに変化しているが、骨格自体はあまり変わっていないから大体わかるなぁ」というのが彼の率直な感想だそうだ。


彼の友人は二次会への意欲を見せたが、二次会へは行かずに帰りたがった彼は、友人とじゃんけんをした。しかしなかなか決着がつかない。あいこの応酬の果てに、「次にあいこだったら行くことにしよう」という条件をのみ、見事にあいこを出して二次会行きを決めたのであった。そして、同窓生の車にアクロバティックに乗り込み、去年の春にできた遊興施設へと向かった。


二次会では、彼は愚かにも日頃の鍛練を怠ったために衰えきった右腕で重い球を転がし、その大半を溝に見送りつつ筋肉痛になったりする様を大衆に曝した。


一次会においても二次会においても、彼は当時仲のよかった友人たちとは一言も言葉を交わすことなく、当時一度も話したことのないような面々とばかり積極的に交流した。昔を懐かしむよりも遥かに生産的な行動だと彼は強がるが、きっとなにか後ろめたいことがあるに違いない。


成人式と同窓会を月並みに楽しんだ彼は午前3時前に帰宅し、とうの昔に眠りについた弟のベッドに潜り込んだ。
そうして、彼のせいで弟がうなされているのを尻目に、成人式を迎えた感慨などに耽る様子もなく、深い眠りについた。