IKEAというもの

彼は、この4月に神戸はポートアイランドにオープンしたIKEAというところに行ってみた。
のたのたと過ごした午前中からなんとか抜け出し、阪急電車を乗り継いで三ノ宮へ。
フラワーロードと呼ばれる緩やかな坂道を少し上った辺りでIKEA行きのシャトルバスに乗る人々の列に加わり、二本目のバスにやっと乗れたと思ったのもつかの間、IKEAに入るためにまた行列が。オープンから一ヶ月しかたっていないとあって、まだまだ人気は衰えていないようだ。


IKEAの中にはおしゃれなモデルルームがたくさんあった。色とりどりの部屋、シックに統一された部屋などなどに一度は彼も目を輝かせていたが、それらは実際には彼にとって住みやすい部屋ではないことに気付き、不必要に憧れることをやめた。
しかし一方でソフアのある家に憧れる彼は、もにゅもにゅした坐り心地のソフアに身を委ねてふわふわした心持ちになったり、やんごとなき手触りの布団に淡い想いを抱いたりして楽しんだ。


IKEAの中にはカフェやレストランもあり、50円のソフトクリームホットドッグからフィンランド料理などメニューも豊富で家族や友人でゆっくり楽しめるようになっている。
しかし彼はそんなことには目もくれず、この日の目的であった“枕元につける激安ライト”を購入して喜んだ。


本を読みながら知らぬ間に眠ってしまうことがしばしばある彼は、朝起きて天井の蛍光灯が煌々とついていたときの疲労感から解放されるために、手元で操作できる小さな光を欲しがっていたのだ。それさえあれば、天井の蛍光灯をつけたままにしなくてすむ。手元で操作できるので「消さな…めんどくさい…でも消さな…」などと思っている間に眠ってしまうこともなくなるだろう。


IKEAに満足した彼は勇んで帰り、早速枕元にライトを取り付けた。
そして、その優しい光にふくふくしながら漫画を少しだけ読み、また明日から始まる一週間に向けて眠りについたのであった。