紫陽花に蹴鞠はつきものか

梅雨の晴れ間の日曜日。
彼は紫陽花の有名な藤森神社にでかけた。
紫陽花は見事に満開だったが、去年は確か無料だったのに、今年は紫陽花苑に入るのに300円もとるようになっている。彼はぷりぷりと怒り、「金の亡者め!そんな手には乗らぬ!断じて金など払わぬぞ!」と一人で宣誓を行った。
いかに金を払わず紫陽花を楽しむか。その答えを求めて紫陽花苑の出口からちょろりと中を見てみたり、柵の周りをうろうろする彼。しかしすぐに外からでも十分楽しめることがわかったため彼は落ち着きを取り戻し、紫陽花だんごという名のよもぎ饅頭をもしゃもしゃ頬張った。

紫陽花だんごを食べ終わって、再び柵の周りをうろうろしながら紫陽花鑑賞を楽しんでいると、周りの人がざわざわと一カ所に集まり始めた。人々の言うことには、「これから蹴鞠が始まるぞ」ということだったので、蹴鞠などテレビのニュースで少し見たことがあるくらいで実物を見られるとは思ってもいなかった彼は色めき立った。


しばらく待っていると、色とりどりの伝統的衣装に身を包んだ男女が登場した。その中の一人が、木の枝に紫陽花をくくり付けたような道具に鞠を挟んで持っている。
まず鞠をそこから外す儀式が始まり、一人が蹴鞠の説明をしながら、流れに沿ってだんだんと蹴鞠の本番が近づく。


本番では「ありー」「おー」などの掛け声に合わせて、思いの外アクロバティックな展開が繰り広げられた。
彼はドキドキしながらその様子を見守っていたが、何度目かに場外に飛び出した鞠をたまたまキャッチすることができ、ドキドキは最高潮に達した。
彼はその時の興奮を「蹴鞠ペッコペコ!蹴鞠ペッコペコ!」と表現し、初めての蹴鞠鑑賞を満喫した様子で家路についた。