スペイン国王来日!?

スペイン国王が、京都外大に来るらしい−。


その話がどこかから彼の耳に入ったのは、10月の終わり頃だった。
それを聞いたとき、彼の心は色めき立った。
なにしろ、今年の春に彼が2ヶ月ほどお世話になった国の君主、すなわちスペインの国王が、日本に、しかも彼の住む京都にやって来るというのだ。
しかもしかも、どこにあるのかも分からない上、万が一にでも彼がうろうろしようものならチョイと襟首を掴まれて足蹴にされそうなお堅い場所ではなく、京都外大という学生でもなんとか手の届きそうな場所である。
こんな機会は一生に一度きりだと断言できよう。

しかもスペイン国王と言えば、去年の秋頃に“「黙れ」発言”が日本でも話題となった、お茶目なじいさんだ。


「これを逃してなるものか!!」
まず彼は、身近なスペイン語の先生に掛け合った。
「ぼかぁ、国王を見に行きたいよ」

その先生は外大に問合せてくれたが、残念ながら結果はNO。

先生の話によると、相手は国賓ということで粗相があってはならぬと、外大側もセキュリティ面でかなり神経質になっているらしく、部外者が行くのは難しいのではないかとのことだった。
しかしまだ、望みが消えたわけではない。
「もっと偉い先生から頼んでもらったら、もしかしたら…。」


なにしろ相手はスペインだ。
スペインは、大雑把な国民によって形成された、適当な国である(と、彼は経験的にそう思っている)。
したがって、スペインやその言語に関わる人々も、きっと大雑把な人間が多いはずだ。
と言うより、神経質で細かいことに心を擦り減らすタイプの人間は、国王の来日記念式典に関係するほど深くスペインに関わることができないはずだ。
すなわち、相手方は適当な人間ばかりである、というのが彼の独自の理論である。


そこで彼は、以前授業をもってもらっていた何人かの先生に、手当たり次第に研究室に会いに行き、会うことができなかった先生にはメールで頼み込んだ。
「おいら、どうしてもこの機会にスペイン国王が見てみたいズラ!たのむズラ!」


その連絡を聞いて、一人の先生(大学の中でもかなり偉い人と思われる)がもう一度外大に問合せてくれたのだが、またもや結果はNO。


その先生(の持つ権力)に期待していただけに、彼のショックは大きかった。


それから一週間ほどが経ったが、なかなかいい連絡は舞い込んでこない。


「今回ばかりはスペインも適当じゃなかったか…」
これだけやってだめなら仕方がないと、諦めかけていた、当日の一日前の午後。

ついに、一人の先生から、待望のメールが入った。

それによると、外大側で定員に空きが出たため、若干名ではあるが外部からの参加が可能になった、ということである。

「行きたければすぐに連絡してください」と書かれていたので、彼は興奮を抑えながらすぐさまその旨を伝えた。

そうして彼は、部外者ながら見事にスペイン国王の来日記念式典への出席する権利を得たのである。


意外にあっさりとした結末である。
やはりスペイン関係は、土壇場でいろんなことが起こるということか。
いや、この場合は京都外大の見通しの甘さが原因か。
なんにせよ、最後まで諦めないことの大切さを、ひょんなことから感じた彼であった。