『偶然の祝福』

小川洋子『偶然の祝福』を読み終えた。


実に実に、不思議な物語であった。
私には少し、難しかったのかもしれない。


小川氏の語り口は非常に穏やかで、それでいて繊細である。
それはもう触れれば壊れる飴細工のようで、読みながら何度も感嘆のため息をついた。


特に私が心を奪われたのは、「キリコさんの失敗」という章に出てきた、“私”が万年筆で書き物をしているときの、キリコさんの行動を描写した部分である。


「あるいはおやつを運んでくる時は、不用意にノートの中身に目をやって盗み見していると誤解されないよう、気を使っているのが分かった。」


この部分に、私はなんとも言い表し難い爽快感を感じる。
痒いところに手が届いた感覚に似ているかもしれない。


何と言ったらわからない自分の中の“もやもや”を、綺麗に拭い取ってくれるような、そんな言葉に溢れた作品である。

しかし、読み終えてもよくわからない。


「暖簾に腕押し」という諺があるが、まさにそんな小説であった。