棚ぼた式奨学生

朝から厳しい陽射しが降り注ぐ7月のある日、ふと彼がポストを覗くと、大学から速達が来ていた。
しかも、宛名が直筆である。



「大学から速達?」
身に覚えのない彼は、その封筒を手にとり首を傾げる。


何かの間違いじゃないだろうか。
それとも何か、呼び出されるような悪事を働いただろうか。
はたまた、逆にそんな良いことをしただろうか。
どれもあてはまらない。



ほぼ不安のみに心を支配されながら封を切った彼の目に飛び込んできたのは、思いもよらぬ言葉だった。







「学部学業奨学生に選ばれました」





学部学業奨学生とは、

学部生・短大生の2〜4年次生で学業成績・人物が特に優秀なもの。

のことを指すらしいが、彼がまさしくそれに当てはまる人物であるかどうかは、甚だ疑わしい。
しかも推薦制で、本人の知らぬところで推薦されて棚ぼた的に奨学金が貰えるシステムになっているらしい。




しかし…よくよく考えれば彼は、入学した頃から奨学金をもらえるかもらえないか、ギリギリのラインだったのだ。
彼は闇雲に勉学に励んだが、なかなかそのラインを越えることは敵わなかった。
そもそも、そのラインがどこなのか、奨学金がどういう仕組みで貰えるのかを調べることも特になかった。
ただただ、漠然と頑張っていたのだ。
しかし、長い間何の音沙汰もなかった。



3年が終わり、そんなことも完全に忘れていた頃にこんな速達がきても、素直に信じられないのは無理もない話である。





彼は初め、「これはきっとドッキリや!」と自分に言い聞かせて喜ばないようにしていたが、いたいけな彼をだまして喜んでいるほど大学も暇ではないだろう。
実際に授与式に呼ばれて銀行の口座番号を紙に書き、なにやらペラッペラの“賞状ちっくなもの”を貰ってやっとその実感がわいてきた。




そして今は、「バイトもせずして卒業旅行費を手に入れた!」と方々に言い触らして、少しばかりの羨望とめいっぱいの顰蹙を込めた眼差しをほしいままにしている。





まぁ実際、彼の努力のたまものであることには間違いないのだが。