渡鹿日記

今、彼は鹿児島に向かう夜行バスの中にいる。



月曜からの三日間、彼はその資金を貯めるためにアルバイトをしていた。

内容は、彼の通う大学が行った高校生向けの合宿プレゼン企画において高校生のプレゼン準備を補助する、というものである。


少し聞いただけでは簡単な作業に思えるが、これがまた予想外に大変だった。

たった三日間とはいえ、高校生やその高校の先生とコミュニケーションをとりながらプレゼンの方向性をうまく導き、そのレベルを高めるという作業は同じ時間の肉体労働に匹敵するものであったと、彼は言う。


そして、“たった三日間”という短さが逆に彼を苦しめた。

「あと一日あれば…」

何度そう思ったかわからない。


とにかく、全国から集まった高校生たちのそれぞれ進行状況の違うプレゼンを、短い時間と少ないスタッフですべてうまくプレゼンできるレベルまで持って行くというのは、想像を絶する体力と頭脳を要する仕事であったようだ。


もちろん彼も毎日疲弊しきっていた。
しかし、それだけではない。


二日目の午後あたりから指導が軌道に乗り出すと、「ぼくはこの仕事に向いている」
「このアルバイトは楽しい」
「ボランティアでもいいくらいだ」
というようなことを口走って周囲を驚かせた。


彼自ら語るところによると「他のどのスタッフよりもこの仕事を楽しんでいた」らしい。



ともあれ、三日間のアルバイトを終えてしっかりと給料をもらった彼は今、鹿児島に向かう夜行バスに揺られている。

18:30に京都を出発して翌日の08:10に鹿児島中央駅に着くというのだから、実に13時間の長旅である。


彼はまだ夜行バスにやられたことはないが、この長さは本当に“尻の肉がもげる”ことを覚悟しなければならないかもしれない。


夜行バスは危険である。