渡鹿日記 初日 3
夕方、フェリーに揺られて桜島に着きました。
そこでぼくを待っていてくれたのは、去年桜島で出会ったおばあさんでございます。
そのおばあさんが「なんにもないとこだけど、田舎に帰ると思って遊びにおいで」と言ってくれたので、そのお言葉に甘えることとなったのです。
桜島のフェリー乗り場からバスに揺られて15分、武登山口というバス停から更に歩くこと10分。
案内されたのは、そのおばあさんがかつて住んでいたらしい家でした。
今はもう一人暮らしになったので別のところに住んでいるのですが、ぼくが来るということでのびのび過ごせるようにわざわざこの家を掃除してくれたのです。
おばあさんは、晩御飯を作ってくれました。
それから、三味線も教えてくれました。
テレビはありませんが、なんだか楽しいところです。
しかし。
ご飯が終わると、おばあさんは今住んでいるところに帰って行ってしまいました。
三味線にももう飽きてきました。
風呂は、フタの上にダンボールや新聞が置かれているので濡らさないように気をつけなければなりませんが、かろうじてシャワーを浴びることができました。
トイレはありません。
あ、トイレがありません。
なんということでしょう。
どれだけ探しても、この家にはトイレがないのです。
一応、それらしい扉はあります。
しかし、その扉の前には障子や机が置かれ、どうみても「開けるな」と言われている気がしてならないのです。
トイレがありません。
トイレ…。
おやすみなさい。