寝過ごす。
彼はふと気がつき、時計を見てハッとした。
20:58
明日朝から就職先で開かれるセミナーに出席するため、彼は今日19:51発の電車に乗って地元に帰る予定であった。
時間を決めていたのは、駅まで迎えに来てもらう約束をしていたからである。
彼は19:51の電車に乗るため、16:30に大学から家に帰り、帰る用意をしてご飯を食べ、風呂にまで入った。
それでも、家を出るまではまだ30分ほどの余裕があった。
それが敗因となった。
「あと30分くらいしたら家出るかぁ…」
彼の最後の記憶である。
気がつけば、21時を目前にして、ベッドから起き上がった自分がいる。
「…え?」
寝起きで、状況が飲み込めずにポカンとする彼。
その顔はまさに、バルセロナのグエル公園にあるトカゲ(ガウディ作)のようであったという。
なお、数秒後にグエル公園のトカゲから人間へと復帰した彼は、ものすごい速さで家を出て電車に飛び乗り、なんとか終電までには帰り着けそうな気配である。
それにしても、19〜21時までの約2時間、彼に一体何があったのだろうか。
彼はただ、「こんなことってあるんか…」という言葉を心の中で反芻しながら、仕事帰りのサラリーマンで混み合う電車に揺られている。