恵みの雨

雨の日は客が少ない。

当然、仕事量も少し減る。


知らない仕事がこないので、彼もいつもより楽である。


すると彼が精神的に楽になり、ミスも少なくなる。


したがって、怒られる回数が減る。



午前中、彼は一度も怒られなかった。
初めての経験である。


しかし、そもそもまだ慣れない社会人生活での疲れも貯まって、身体が呻きを上げ出した頃。


午後になるとやはり疲れが出てきた。


取りに行ったファイルがなかなか見つからなかったり、必要な書類を間違ってごみ箱に入れてしまったり。


身体も重いし背中も痛い。
メガネの重さで鼻の骨も痛い。


上司がお通夜に行くため彼も早く帰れたのがせめてもの救いだが、それでもまだ、彼は“やってしまって”いた。


電車を待っている時に、支店からの電話。
おそるおそる出ると、パソコンのパスワードを聞かれた。


彼は部のホスト機に自分のIDでログインしたまま帰ってしまったので、そのパソコンが彼のIDのままロックされてしまった、という状況である。


彼は反省した。
実は、先日別のパソコンで同じことをやって怒られたところであった。


「今日はそのパソコンはちゃんとログオフしたのに!」


あちらを立てればこちらが立たぬ。


しかしあのパソコンとこのパソコンは両方立てられたはずである。


これでもう、明日の分の“怒られ予約”が入った。

今週もあと一日。
早く寝て乗り切るしかない。


「怒られんのはいいけど、背中痛いのは嫌や!」

というのが、今の彼の正直な気持ちである。