どうせなら

天気もよく暖かい日曜日の昼下がり。

いつもなら目を尖らせて原付きをぶっ飛ばしている彼でも、こんな日は五月の陽射しを浴びつつ、鼻唄まじりにのんびりと走りたくもなる。


そんな穏やかな心持ちで駅前から続く道路を南へ向かっていた矢先である。


彼の前を、少し距離を開けて走っていた車の右側の窓から、何やらビラのようなものが十数枚ばらまかれた。


当然彼は驚いたが、そのすぐあとに、今のは序章に過ぎないとばかりに、更に50枚ほどもあろうかという数のビラらしきものがばらまかれた。


それは黄緑地にオレンジで何か書かれている見るからに奇抜なもので、彼は直感的に「何か辛辣なことが書かれているのではないか」と少し胸を踊らせてそのビラらしきものを確認した。


よくよく見たそれは、何のことはない、ただのROUND1のビニール袋であった。


おそらく、クレーンゲームの景品を入れるために自由にもらえるようになっているものなのだろう。
それを必要以上にもらってきて、車から棄てただけのことである。


彼はなんだかがっかりした。

自分の考えを世の中に流布したいがための行動でであったり、そのような行動をもってしたか世の中に伝えることのできない鬱屈した思いを表しているのならまだしも−彼は少なからずその辺に期待をしていたのだが−、何の表現でもなくただ単にゴミを窓から棄てただけなら、情状酌量の余地もない。


その車を見れば、10〜20代と見られる、年齢のばらばらな男が4、5人乗っていた。


彼は怒り心頭に発し、追い抜きざまにその男たちを睨みつけはしたものの、そのような輩にかける言葉も見つからず、悲しい気持ちになった。


どうせ迷惑なことをするなら、自分の意志を表現するなり、社会への怒りを発散するなり、マイノリティの叫びをぶつけるなり、何か意味のあることをしてほしいものだ。




余談だが、彼は今日、半袖のカッターシャツや通気性のよさそうな革靴などを買い、6月から始まるクールビズに備えた。