暗黒時代到来
6月の異動で、彼の所属する融資課から唯一の女性が去った。
それはつまり、鬼のような上司の、唯一の心のオアシスが無くなったということだ。
さらに、後任で異動してくる人は30代半ばの男性であり、まじめで頭はいいが少し変わった人であるというなんとなくネガティブな情報も入って来ている。
とどのつまり、上司が唯一優しい口調でしゃべる人がいなくなり、融資課から平穏な時間が消えるということである。
あまつさえそんな状態になるのに、仕事の面でもその人の抜けた穴は大きい。
彼もいろいろなことをその人に聞いて学んできた。
彼の物覚えの悪さから、もはやその人に呆れられて冷たくあしらわれ気味だったことを差し引いても、その人がいなくなることによる損失はあまりにも大きい。
これからは、わからないことを誰かに聞けない。
これからは、彼の上司は日がな一日不機嫌だろう。
これからは、彼が上司に理不尽な物言いで人権を蹂躙される回数がさらに増えるだろう。
これからは…融資課暗黒時代の幕開けである。