人事異動のワルツ
金曜日、ついに人事異動が発表になった。
上司が異動。
彼は不動。
まさかまさかの、彼が考えた最も彼にとって都合のよい結果だ。
これでもう、彼は非人道的罵声を浴びせられたり椅子の下で足を蹴られたりすることはなくなるのだ。
昼ご飯を18時頃食べなければない状況からも抜け出せるし、あわよくば昼休憩を30分くらいとらせてもらえるようになるかもしれない。
喜びが顔にでそうになるのを堪えながら、彼はしばらくこの上司から逃れられるメリットを頭の中でリストアップしてみた。
しかしその喜びの一方で、なんだか予想外の感情が心の隅に転がっていることにも気づいた。
その上司は、まがりなりにも彼にとって初めての上司であり、やり方の善し悪しはあるにせよ、右も左もわからなかった彼を、ここまで育ててくれたのもその上司なのだ。
そして、同期たちの話を参考にして捻出された、その上司のメリットもある。
・残業代をきちんとつけさせてくれること。
・融資が外交より早く終わった場合、早く帰ることができること。
この二点において、その上司は他のそうさせてくれない上司よりも相対的に良かったと言える。
しかしよく考えてみる。
今挙げられたこの二点のメリット、これらは、ごく普通の、当たり前のことではないか。
どの上司だと残業代をつけさせてくれないとか、店ぐるみで残業代をつけさせないとか、それ自体がそもそもおかしいのだ。
思い返してみれば、その上司と顔を合わせることを考えただけで暗澹たる気持ちで陰鬱な表情になっていた時期もあった。
やはり、今回の人事異動は彼にとってプラスに働くことは間違いないだろう。
あとは、次に来る上司がどんな人物なのか、ということであるが、それは、9月の最終週に明らかになる。