外国送金por fabor!

どうやら、彼のいる支店は他の支店に比べて、“外国送金”が多いらしい。


なんだか二、三日に一度はあるし、多いときには一日に四件も来たこともある。



最近本部にある外為センターから異動してきた人にも、“彼の名が外為センターで有名になっている”という衝撃の事実が告げられ、彼は“自分の支店は外国送金が多い”ということ、そして“外国送金に関して市場営業部に電話しすぎである”という現実を受け入れた。



外国送金とは、例えば外国から出稼ぎに来ている人が母国にお金を送る際や、親が子どもの留学先に生活資金を送る際などに利用される。


この外国送金の厄介な点は、自店だけでは処理ができないというところである。
いちいち本部にファックスを送るなど手続きをふまなければならず、そのため必然的に書類も増えて一瞬にして机の上が溢れかえる。


そして何より、送金依頼書が細かい上記入箇所が多く、しかもローマ字で書かなければならないため、その記入だけでも相当な時間を要するのだ。

その上、癖のある字を書かれた場合や記入漏れがあったときは本部と電話をしながら逐一お客さんに確認しなければならず、場合によってはファックスの再送という事態になり更に時間がかかる厄介なものなのである。


そのため、彼がどれだけスムーズに仕事を遂行しても、40分くらいはかかる外国送金。


暇なときやお客さんに時間的余裕があるときなどは、彼も精神的余裕を持って作業に臨むことができるのだが、忙しいときや、例えばお客さんが会社の昼休みに送金に来たような場合は、もうてんやわんやである。



そんな大変な外国送金ではあるが、実のところ彼は結構この仕事が好きである。


彼の支店の周りには出稼ぎに来ている外国人が多いらしく、中国やインドネシアの人が中心なのだが、ごく稀にブラジルやパラグアイなど、スペイン語の通じるお客さんが来ることがあるのだ。


そういった人があまり日本語を得意としていなければいないほど、彼の目は輝く。


ここぞとばかりに、頭の隅で少し埃を被っていたスペイン語の単語を引っ張り出し、「ここは誕生日を書くんですよ」「ここは相手の住所ですよ」と説明し、「誰かこの輝いているぼくを見てくれ!」とばかりに他の人を見遣るのだが、たいてい、というか一度も、誰かがスペイン語で話す彼に気づいてくれたことはない。


それでもいいのだ。



外国送金の楽しみはそれだけではない。
例えば、どこかの会社が外国から何かを仕入れた料金の送金などを処理しているときには、なんとなく世界を繋げる役割の一端を担っている気分になれて楽しいし、その商品の仕入れ先の国のことを想像して「行ってみたいなぁ」と考えを巡らすのも悪くない。
あくまでも、暇なときだけであるが。


片田舎の片隅で、彼は世界の誰かと誰かを繋いでいるのだ。
そう考えると、この仕事も、少しはやり甲斐のあるものだと思える。


もういっそのこと、外国送金専門の人になりたいと日々考えるようにもなってきたほどである。


なんてことは、まるでない。


願わくはスペイン語の客の比率がもう少し高くならないかということであるが、そう都合よくはいかないのが世の常である。