“知らない人について行ってはいけない”


「知らない人について行くのは、能動的にも受動的にも、あまりいいことがない! 」


彼は注意を呼びかけている。



彼が名古屋へ向かう途中のことである。


大阪駅まで乗っていた電車に、“ちょっとかわいい人”が乗っていた。


それがどんなかわいさだったかというと、彼いわく、「一般的にもかわいい部類に入るとは思うが、しかしそれを少し外した…繁華街で例えるなら、メインストリートから路地を一本入ったところでたまたま見つけた、趣があって落ち着ける、しかもふらっと入れるカフェのような…」
まぁつまり、彼の心をくすぐるような感じだったのだ。
そんなことはどうでもよい。


問題はその後である。
その人も大阪駅で降り、丁度彼と同じ京都方面の電車に乗るようだったので、彼はふらふらと何も考えずにそのまま同じ電車に乗ったのだ。


そうしたら、それは高槻から各停になる電車で、彼は高槻で、本来乗るはずだった新快速に乗り換えなければならなくなったのだ。
彼がついて電車に乗ったその人も、大阪からひと駅の新大阪で早々に降りてしまったし、本来乗るはずだった新快速は、高槻に着いた時点で既にぎうぎう詰めになっていた。



彼の名誉のために言っておくが、彼には、その人のあとをついて行ってどうこうしようなどという考えは毛頭なかった。
とことんついて行くつもりもないし、話しかけようとさえ思っていない。
ただ、どうせ同じ方向に行くなら、もう少し観察しておこうかな、と思っただけである。
と言ってはみたが、彼の名誉はちっとも挽回されない。
それどころか変態さが増すばかり。



今回はちゃんと本来乗るはずだった電車に乗り換えられたのでよかったが、ふらふらと乗った電車が各停だった場合、乗るはずだった新快速に追い越され、名古屋到着が大幅に遅れていたはずである。


今回の経験から、彼は“知らない人について行ってはいけない”という教訓を手に入れた。


今回のように電車を乗り間違えることもあるし、ついて行きすぎると犯罪になり、本当に捕まってしまうこともあるかもしれない。
また、誰かから「ついておいで」などと言われた場合、のこのこついて行くと酷いめに遇うのは、火を見るより明らかである。


能動的にも、受動的にも。


重要なのは、そんなことは誰でも知っているということである。


そうして、抜きん出て賢明な人ならずとも、いくら進む方向が同じとはいえ、知らない人にふらふらついて行ったりはしない。



そう、彼は阿呆なのだ。


だからこうして私が、彼の愚行をここに記し、多くの人の目に晒して戒めているのである。

めんまるさんにも戒められるがよい。


12時13分、彼は予定通りに名古屋に着いた。