献血にもの申す

彼は激怒した。
かの邪知暴虐の王を…と、そういうわけではない。


新年早々、献血に来てのことである。


いつからか、彼は“献血によく行く人”になっているのであるが、そんな彼が12月に成分献血をしたときに、献血ルームでこう言われた。


「年始は献血者が少なく、血が足りなくなるので、是非来て欲しい。」


それを快諾した彼は、日時まで指定させられ、それを記入した予約券のようなものを渡された。


そして今日。
10時30分。
彼は約束をきっちりと守り、献血ルームを訪れた。
ところが、受付で言われたことは、「たくさん人が待っているので、現在1時間40分待ちです。」という、彼にとって理解しがたい言葉であった。


一体どういうことだ。


彼は半月以上も前から、今日のこの時間に献血の予定を入れ、そしてその予定通りに献血ルームに来た。
それなのに、「予想以上の人が来てくれているから、来た順番で待ってもらっている。」と言うのだ。



一体全体、何のための時間指定なのだ!


それならば、時間など指定せずに「年始にも是非来て下さい」ぐらいのお願いにとどめておけば良いではないか。

それをわざわざ日時をしっかり決めて予約券のようなものまで配っているのだから、せめてその対象になった人は優先的に案内するぐらいの配慮があってもよいのではないか。


言葉で謝るばかりで頑なに“来た順番不動説”を守ろうとする受付の対応も、「思ったよりいっぱい来たからお前はもういいよ」と言われているようで腑に落ちない。


理不尽であり、不愉快である。


近年献血人口の減少が問題になり、献血ルームも飲み物やプレゼントなどのサービスの充実で対応しているようであるが、いくらハードの面を充実させてもソフトの面で献血者にこういう想いをさせていては、その減少に歯止めはかからないであろうと思わざるを得ない。


理由はよくわからないが去年だけで10回以上も献血に通った彼でさえ、こんな状態ならもう二度ときたくないと感じている。



「人の善意を食い物にするとはこういうことか!!ばかばかしい!みなさん、献血なんか行かない方がいいですよ!!」
と誰彼構わず声高に叫んで回りたい気持ちを抑えて、それでも献血の順番を待っている彼は、相当なお人好しか、それともただの阿呆なのか。


いや、その両方なのかもしれない。

家でやるべきことが山のように残っている年始休みの最終日は、予定を大きく崩しながら過ぎていく。