この世界の横暴

彼は憤っている。


家に帰るなり、こう叫んだ。


「おかしい!!やってられん!」


どうやら、その原因は、支店長の発言にあるらしい。


彼は現在、銀行の組合の分会長をやっている。
法律によって、銀行には組合を作ることが義務付けられている。
したがって“銀行員=組合員”という仕組みになっており、組合といっても彼の言うところの“本当の組合”ではなく、形だけのものなのだが。


組合では、支店ごとに一人“分会長”を決めなければならない。
彼も“選挙によって選出された”すなわち“多数決で押し付けられた”分会長の一人なのである。


なぜみんなが分会長をやりたがらないのか…。
それは、分会長には、支店の人の組合行事への参加などをまとめたり、業後に本店で行われる委員会、さらには休日に行われる組合大会などへの参加を求められるからである。


要するに、めんどうくさいのだ。


そして、明日、19日の水曜日。
せっかくの早帰り日にも関わらず、組合からは18:30からの組合委員会への出席要請が。


初めは憂鬱だった彼であったが、ある情報を聞いて、「分会長でよかった」と思い直すことになる。


それは、“水曜日に支店長が、取引先のスナックで飲み会をやるらしい”というものである。



そんな飲み会に行くぐらいなら、組合委員会に参加したほうがよっぽどいい。


彼は、支店長に組合委員会のため飲み会に行けない旨を伝えた。


そこで返ってきた言葉が、彼の憤りの根源となったのである。


「仕方ないな。」


そう、飲み会にはいけないのだ。


「そんなもんいつも同じやろ。休め。断れ。」


…え?


さらに支店長はこう付け加えた。


「欠席の理由、飲み会やとか言うなよ。会議とかって言っとけ。」



その瞬間の彼の思考はまさにパニックだ。
まさかの、飲み会優先命令。
聞き間違えかとさえ思った。

頭の中に渦が三つぐらいできた状態で、彼はすぐに組合に電話し、欠席の旨を伝えた。



疑問が湧き上がってきたのは、帰り道の途中だ。


その疑問とは、こうである。

組合とは、経営者側に対して存在するものである。
一般行員は組合員であり、支店長は経営者、すなわち非組合員である。
経営者が組合員の組合活動への参加を、その権限において制限することは許されるのか。


たとえ企業組織に組み込まれたふにゃふにゃの組合であれ、どのような理由であれ。


彼はだんだん腹が立ってきた。
なんの権限で、彼は組合行事への参加を辞退させられなければならないのか。


「これは経営者の横暴ではないか!!」


彼の怒りは止まらない。


「おかしいやんか!!!もうこんなところやってられん!!」



彼の怒りの根源は“組合の委員会に参加できないこと”よりも“飲み会に参加させられること”の方に若干偏っている気もするが、言っていることはわからないでもない。


彼がこの世界に向いていないのか。

それとも、この世界がおかしいのか。


そもそも“この世界”とはどの世界なのか。


彼の勤める銀行?

金融業界?

それとも社会全体?

彼の心は、日に日に“この世界”を受け入れられなくなっている。




「経営者の横暴を許すな!!」


そう言い残して、彼は風呂に入って寝た。