本部検査と支店長のお言葉

突然、彼の勤める支店に本部検査が入った。


検査とは、日頃の業務の“不備”を探しに来るものなのだから、往々にして来るときは突然である。


そうして、彼の所属する営業課からは、実にたくさんの“不備”が見つかってしまった。


彼も大きなミスをしていたし、先輩や上司も、彼よりももっと重大なミスを犯していた。


次の日の朝礼では、支店長の怒りが爆発した。


そうして、あとで営業課のところに来て、支店長はこう言った。


「今度同じミスがあったら、その場で辞めてもらう。有無を言わさず辞めてもらう。全力で辞めさせる。」


支店長はこうも言った。


「不祥事起こして路頭に迷うやつはいるけどな、俺はそれより前に路頭に迷わしてやる。絶対辞めさすからな。」



彼は、その言葉を聞いて、「これは本気で言ってるなぁ」と感じた。
“不備”は常に不祥事と隣り合わせのところにあるのでこんなに怒っているのだが、それでも、「辞めさせる」というのはなかなかの発言である。


みんな、恐れおののいた。
彼も、恐れおののいた。


しかし、ちょっとこう思った。


「そしたら楽に辞めれていいな。理由とか考えずんでいいし。踏ん切りつくし。」


阿呆の極みである。


どうしたものか。


これから彼らは、常に“クビ”と隣合せで仕事をしなければならなくなった。


どうしたものか。


なんだか息苦しい。