皆既月食とKと鴨川

彼は、現在通信課程に在学している大学の“スクーリング”に参加するため、京都を訪れた。
今日の宿は、友人Kの実家である。
彼らはイタリアの写真データを交換し、イタリアで観たローマ戦の動画を見て、一乗寺の天天有でラーメンを食べた。

天天有のラーメン(中華そば)は、煮卵入りと煮卵なしが同じ値段である。
それなら、煮卵入りを頼むに決まっている。
なぜ、わざわざ同じ値段なのか。
彼らの見解はこうだ。
「卵が嫌いな人用やな。」


…真相はわからないが、彼らは迷うことなく煮卵入りを注文し、ぺろりと平らげた。
一乗寺本店の味は、そこはかとなく美味い。


それはさておき、今日は皆既月食である。


ラーメンを食べるまでは、厚い雲が広がり、街の灯りを反射して妙にぼんやりと明るい空だったのだが、ラーメン屋を出てきた21:30頃に再び空を見上げると。
雲の切れ間から、月が見えるではないか。


よくよく見ると、確かに左側が少し欠けている。


ずっと見ていると、どんどん欠けていくのがわかる。


気づけば、空には雲一つなくなっていて、空の真ん中に主役の風格を漂わせた月がぷっかりと浮かんでいる。
かつて、こんな好条件で、こんなにしっかりと、月食を見たことがあっただろうか。
彼らは興奮冷めやらぬまま一度Kの家に帰って荷物を置き、鴨川の方へと向かった。


途中ですれ違う人々も、時折立ち止まって月を見上げている。


極寒にもかかわらず、鴨川デルタには月食見物の人々が少なからずいた。
彼らもその中に入り、土手の斜面に仰向けに寝転ぶ。



月はどんどん欠け、暗くなった部分がぼんやりと浮かび上がる。


彼らは、寒さを忘れて月を見上げていた。


23:30頃、月は、完全に地球の影に入ったようであった。


しばらくすると、急に気温が下がったような気がした。

そして川から吹き上げる風が殺人的な寒さを纏ってきたため、彼らは逃げるように家路についた。



風呂に入った後、Kの家のベランダから見ると、月は見事に左側からその明るさを取り戻していた。

月食を見終わった翌朝に大学の授業出席を控えた彼と、法事を控えたKはそれぞれ床に就いた…。
というのが理想であるが、思い通りにはいかないものである。


彼らは、午前2時にして“ウイイレ”という名のパンドラの箱を開けてしまったのだ。


先日のローマ戦の興奮冷めやらぬまま、彼らは夢中でウイイレをした。


気づけば、時計は5時をさそうとしている。
その瞬間、彼らは全てを見通した。


2時間しか寝られなかった時の寝起きのだるさを。
睡眠不足で授業を受ける危うさを。
寝不足できくお経の魔力を。
そして、明日から始まる平日のつらさを…。


そして、最後に付け加えておこう。
彼らの危惧は、すべて現実のものになったということを。