さよならネクタイ

東日本大震災から一年。
議論の続く原発問題を背景に、今年も"節電の夏"になりそうだ。


彼の勤める銀行でも、去年に引き続いて"クールビズ"の期間を拡大する旨の通達が出された。


彼の勤める銀行におけるクールビズとは、通常6~9月の間実施される、ノーネクタイ、ノージャケットを原則として義務付けるものである。


そのクールビズが今年はゴールデンウィークの連休明け、5月7日から実施されるという。


その通達を見て「そうか、今年もか。」となんとなく思っていた彼は、ふと、秋に思いを巡らせた。


彼が銀行を辞めるのは9月。
例年でも、まだクールビズの期間中である。


つまり、彼が銀行員としてネクタイとスーツのジャケットを着用するのは、連休前の5月2日、今日が最後となるのだ。


その事に気づいた彼はなんだか、むずむずするような、そわそわするような、不思議な気持ちに包まれた。


まだ実感はないが、"その時"が着々と近づいている。